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太平洋の大円 [あれこれ]

太平洋は広い

言うまでもなく、太平洋は極めて広大な大洋で、地球儀をまわしながら見ているとほとんど太平洋だけが見えて、陸地は周辺をちょっと縁取るだけという角度があることに気づきます。太平洋だけで水半球と言っても良いようにさえ見えます。

(注:"水半球"は正確には地球の厳格に半球表面を考えたときの海洋面積最大のものを指すようですので、そのように定義された用法ですと、ここの画像のものとは中心位置がちょっと異なります。下図参照。)

(水半球中心 南緯47.22度 西経178.47度)

これだけ大きい領域ですと、よく知られたことですが、2地点間の最短距離のルートというのは磁石の示す単一の方角を辿り続けることによって描かれるルートとは異なったものになりますね。球の上での2地点間の最短距離ルートは大円に沿う形になるわけです。

さて、マゼランは、スペイン王との契約のもと、ヨーロッパからアジアへの西回りルートを見つけだすために、不屈の決意で南米大陸東岸を南に下り、1520年10月21日、現在ではマゼラン(あるいはマガリャネス)海峡と呼ばれる海峡にはいり、ピガフェッタの記事によれば11月28日に太平洋に出る事ができました。 それから全く補給なしに98日をかけて1521年3月6日にグアム島に立ち寄るのです。(グアム島の人達とマゼランたちとの出会いは幸福なものではなかったようです。土地の習慣を知らずに立ち入ることによる悲劇というのがあるわけですね。)

水先案内人のアルボの航海日誌によればマゼランたちの船の進みはゆっくりでも、着実に船の位置の緯度が南から北に変わってゆく様が見て取れます。(注:経度については書いてありません。緯度は日付と太陽の高度角をもとにして分かりますが、正確な時計がないと経度は正しくは計れないんですね。)

(おおよそのマゼランの航路)

航海については、天候や風ということもありますし、これで良いのだと思いますが、幾何学面での理屈だけを言ってしまえば、この着実に緯度を北に上げてゆくというのは、この広大な太平洋では最短距離ではないということなんですね。マゼラン海峡の西の出口からグアム島までの大円を書いてみますと、おおよそ次のようになります。

上の図で2本のルートのうち、直線に近く見える方が大円沿いのルートです。これによると、マゼラン海峡西端(南緯52.5度 西経74.5度)から最初ほんのわずか南よりに西に向って、大体南緯54.4度 西経115度で最南端として後に次第に北よりに進んでゆくというコースになるわけですね。
マゼランの通ったルートがグアム島まで8415.88(国際)海里(15586.2km)だとしますと、大円沿いのルートは7883.85海里(14600.9km)となり、532海里(985.3km)つまり6.32%の短縮になります。
もっとも、この大円沿いのルートというのは船の場合ほとんど実用にはならないと思います。それは"吠える40度線"、"狂える50度線"とも呼ばれる強い疾風や暴風の吹き荒れる海域を長く通ってしまう事になるからです。船と違って飛行機の場合は燃費の考慮からは十分候補にあげられるかとおもいますが、これも上空の大気の流れにもよりますので簡単には言えないでしょうね。
それはともかく、苦心して世界の南の果て近くの海峡を通って太平洋に出たら、北西ではなく、さらに西南西から西に向う(つまり南極に近づく)のが、結局は赤道を越えてグアム島に向う最短ルートになるという意外性が面白い所です。それが太平洋の広大さのひとつの現れなんですね。
今回はちょっとした理屈の遊びでした。


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